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熊本地方裁判所 昭和38年(行)5号 判決 1969年3月17日

原告 高畑木材合資会社

被告 熊本国税局長・熊本税務署長

主文

1  被告熊本税務署長が昭和三二年三月八日付でなした原告の昭和二九年二月一日から同三〇年一月三一日までの事業年度(昭和二九事業年度)の法人税額六、二三九、七二〇円(審査決定により六、〇九七、五六〇円に減額)、過少申告加算税額一八〇、四五〇円(審査決定により一八二、八〇〇円に増額)、重加算税額一、二八八、五〇〇円(審査決定により一、一七二、〇〇〇円に減額)とする更正処分のうち、法人税額六、〇七八、二五〇円、過少申告税額一八一、八〇〇円をそれぞれ越える部分はいずれもこれを取り消す。

2  原告の被告両名に対するその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

(第一次的請求)

1 被告熊本税務署長が昭和三二年一月二三日付でなした原告の昭和二六年八月一〇日から同二七年一月三一日までの事業年度(以下昭和二六事業年度という)の法人税額一、三四二、九五〇円(審査決定により一、〇一八、七九〇円に減額)、重加算税額二〇六、〇〇〇円(審査決定により四四、〇〇〇円に減額)とする再更正処分のうち、法人税額八三一、九〇九円を越える部分および重加算税額の全額はいずれもこれを取り消す。

2 同被告が昭和三二年三月八日付でなした原告の昭和二九年二月一日から同三〇年一月三一日までの事業年度(以下昭和二九事業年度という)の法人税額六、二三九、七二〇円(審査決定により六、〇九七、五六〇円に減額)、過少申告加算税額一八〇、四五〇円(審査決定により一八二、八〇〇円に増額)、重加算税額一、二八八、五〇〇円(審査決定により一、一七二、〇〇〇円に減額)とする更正処分のうち、法人税額九六、五一〇円を越える部分および過少申告加算税額、重加算税額の全額はいずれもこれを取り消す。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

(第二次的請求)

1 被告熊本税務署長が、昭和三二年一月二三日付でなした原告の昭和二六事業年度に対する法人税等の再更正処分および昭和三二年三月八日付でなした原告の昭和二九事業年度に対する法人税等の更正処分は、いずれもこれを取り消す。

2 被告熊本国税局長が、昭和三八年二月二一日付でなした原告の昭和二六、二九各事業年度に対する法人税等の審査決定は、いずれもこれを取り消す。

3 訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告両名

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(第一次的請求について)

第二原告の請求原因

一  原告は原木の買付けならびに製造加工、販売等を営むことを目的とする法人で、昭和二六事業年度以降青色申告書提出の承認を受けているものであるが、昭和二六、二九事業年度の各法人税に関し別表記載のとおり確定申告をしたところ、被告熊本税務署長は同表記載のとおり昭和二六事業年度については更正処分、再更正処分、同二九事業年度については更正処分をしたので、昭和二六事業年度分について同三二年二月二二日、同二九事業年度分について同三二年四月六日それぞれ被告熊本国税局長に審査請求をしたところ、同局長は同表記載のとおり審査決定をした。なお昭和二六事業年度の更正処分税額は納税した。

二  しかし、昭和二六事業年度の原告の所得金額は一、九八〇、七七九円(昭和四三年七月八日付原告準備書面)、法人税額は八三一、九〇九円、同二九事業年度の所得金額は二二九、八〇〇円、法人税額は九六、五一〇円であるから、同二六事業年度分再更正処分および同二九事業年度分更正処分のうち右税額を越える部分は違法であり、取り消されるべきである。

三  さらに、昭和二六事業年度の原告の法人税の確定申告額は、別表記載のとおり原告が本訴において主張する法人税額より過少であるが、これは原告従業員がたまたま売上げを帳簿に記載するのを忘れたもので、所得を隠ぺい又は仮装したものではないから、同事業年度の重加算税全額および同二九事業年度の過少申告加算税、重加算税の賦課決定は違法であるから、全額取り消されるべきである。

第三被告熊本税務署長の答弁

請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実は否認する。同第三項の事実は原告の昭和二六事業年度の法人税の確定申告額が原告が本訴において主張する法人税額より過少であること、売上げの記載洩れがあることは認め、その余は否認する。

第四被告熊本税務署長の主張

一  昭和二六事業年度の課税処分の根拠(審査決定により修正された額)について、

(一)  同年度の課税処分の根拠は別紙昭和四二年一二月一四日付被告ら準備書面(以下別紙被告ら準備書面という)記載のとおりであるが、昭和二六事業年度分法人税に対する再更正処分、昭和二九事業年度分法人税に対する更正処分は、原告の右各事業年度分法人税につき脱税の疑いが生じたので、被告熊本国税局長は昭和三〇年一一月四日法人税法違反嫌疑事件として査察調査を行つたところ、右両事業年度中において多額の資産を隠ぺいし、その他売上げ金の除外等脱税の事実が判明したので、その調査の結果にもとずきなされたものである。

(二)  原告主張税額と被告主張税額とに差額が生ずるのは元訴外高畑末登所有山林熊本県菊池郡水源村大字原字楮畑五〇二一番の二、同大字字市成五〇二二番の七(登記簿上菊池市原字楮畑五〇二一番の二原野五一町八反一畝二五歩、同市原市成五〇二二番の七原野二反五畝)の内山林四三町四反五畝三歩(以下本件山林という)が何時原告の所有となつたかによるものである。

(三)  本件山林は昭和二六事業年度中に原告が合計一、七七二、七六六円で取得したものである。すなわち、原告は原告法人設立時である昭和二六年八月一〇日高畑末登の本件山林共有持分(1/2)を九七二、七六六円で、さらに同年九月訴外益田稔の本件山林共有持分(1/2)を八〇〇、〇〇〇円でそれぞれ両名より取得した。

(四)  本件山林の利用可能実石数は二六、一七六石であり、原告が昭和二六事業年度中に本件山林より出材した石数は二、四七一石である。よつて、期中出材価格は一六七、三八一円であり、本件山林の期末棚卸額は一、六〇五、三九五円である。原告は高畑末登の持分の中三、五五〇石のみを九七二、七六六円で取得したとして期中出材価格を減じ期末棚卸額三六〇、四三一円と申告しているので、原告申告額と被告主張額の差額一、二四四、九六四円が期末棚卸計上洩れとなり、益田稔の持分は譲り受けていない旨主張しているので同人に対する代金八〇〇、〇〇〇円が仕入計上洩れとなつている。右損益計算の結果本件山林関係所得計上洩れは四四四、九六四円となる。

(五)  重加算税の課税について、

このように原告が本件山林全部を取得しておきながら、その一部である三、五五〇石のみしか取得しなかつたものとして所得を過少に申告したことは所得計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたものである。

二  昭和二九事業年度の課税処分の根拠(審査決定で修正された額)について、

(一)  同年度の課税処分の根拠は別紙被告ら準備書面のとおりであるが、原告主張税額と被告主張税額の差額の主要部分は次の事実による。

原告が訴外菊池郡隈府町外一一ケ村土木財産組合(以下土木財産組合という)との間に同組合が国より取得した国有林菊池郡水源村大字原字楮畑五〇二〇番の一(二六町六反七畝一歩)の一部(組合が既に訴外神谷強、橋爪末喜に売却した立木、訴外松岡孝次に売却した土地立木を除くもの)(以下元国有林という)と本件山林を昭和二九年四月二八日交換したにもかかわらず、本件山林の交換評価額二一、〇四二、六〇九円を売上げとして計上せず、更に原告が取得した元国有林の一部を松岡孝次に六、五〇〇、〇〇〇円で売却した売上げ金も売上げとして計上せず、合計二七、五四二、六〇九円の売上げ計上洩れがあり、他方前期よりの期首繰越高として本件山林繰越高九三六、六六七円および原告が交換により取得した元国有林の評価額二六、六〇六、〇七一円(交換に供した本件山林の評価額二一、〇四二、六〇九円と原告が組合に支払つた交換差金五、五〇〇、〇〇〇円、延滞金六三、四六二円の合計)の山勘定仕入れ洩れがあり、その結果期末山勘定棚卸洩れとして一二、〇二一、四八六円(元国有林仕入高より松岡孝次に売却分を減じ更に当期出材分価格八、〇八四、五八五円を減じたもの)がある。右損益計算の結果、本件山林関係所得計上洩れは一二、〇二一、三五七円となる。

(二)  重加算税額の課税について、

右本件山林関係の計上洩れによる所得の隠得は、原告が前記のごとく昭和二六事業年度において本件山林全部を取得したにかかわらず、三、五五〇石しか取得しなかつたごとく主張することにより作出されたものであり、更にその他別紙被告ら準備書面記載のとおりの所得計上洩れがあり、原告は右所得に対する法人税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたものである。

第五被告の主張に対する原告の答弁および主張

一  昭和二六事業年度の課税処分の根拠について、

(一)  別紙被告ら準備書面記載の課税要件中、益金科目については原告の申告額欄記載の金額は認めるが、それを増額する部分は全て争う。損金科目については申告額を増額する部分は認め、減額する部分は争う。本件山林関係は損金科目を増額する部分についても関連上争う。被告主張第四の一の(一)項の事実中、被告主張の日に熊本国税局長の査察があり、再更正、更正処分がそれぞれあつたことは認め、その余は争う。同(二)項の事実は認める。同(三)項の事実は、原告が昭和二六事業年度において高畑末登から本件山林の間伐用立木を含む伐倒木(以下間伐材という)を九七二、七六六円で取得した範囲において認め、その余は否認する。同(四)、(五)項の事実は否認する。

(二)  本件山林は元訴外隈府町(現菊池市)所有であつたところ、訴外小林家信がこれを買い受け、更に高畑末登と益田稔が共同で買い受け、その持分を各1/2づつとし共同で出材していたところ、高畑末登の単独所有とすることになり、取得価格一、三〇〇、〇〇〇円に取得後の経費等を加え総額二、七五〇、〇〇〇円と評価し、その1/2、一、三七五、〇〇〇円で高畑が益田の持分を買い取るべきところ、高畑が益田の支出すべき経費等五七五、〇〇〇円を立て替えていたので差引き八〇〇、〇〇〇円を高畑が益田に支払い、昭和二六年七月二二日益田の持分を取得したものである。高畑は右代金八〇〇、〇〇〇円を自己が代表社員となつて原告会社設立後原告会社から支払つているが、会社の計理上は右八〇〇、〇〇〇円は原告の高畑に対する貸付金として処理し、高畑が原告に譲渡した資産の対価と相殺すべきところ、原告の計理事務を担当した訴外林計理事務所菊池出張所員永見清一郎は右取引の実際を知らず、同人の錯誤により原告が益田の持分を取得するため八〇〇、〇〇〇円を同人に支払つたごとき記帳がなされたものである。高畑は本件山林全部の所有権を取得したが、本件山林の杉・檜は直ちに伐採するよりも間伐をし育成するに適したものであつたので、間伐用の立木・伐倒木三、五五〇石のみを代価九七二、七六六円で原告に譲渡(実質は現物出資)したものであり、当時の石当り時価二七四円からみても右代価九七二、七六六円は三、五五〇石分の代価である。高畑は原告に本件山林全部を譲渡したのでもなければ、まして原告会社設立当時(昭和二六年八月一〇日)益田はすでに本件山林の持分を有しなかつたものであるから、原告が益田からその持分を譲り受けることもできない。高畑から本件山林三、五五〇石を原告に出資すると告げられた永見清一郎は国税局に昭和二五年度の本件山林の材積、価額調査の結果を尋ねたところ、材積は六、五〇〇石、取得価格は一、〇〇五、六二一円である旨教示を受けたので、高畑所有として右六、五〇〇石が存在するものと軽信し、これを基礎にしてその七割を利用材積とし四、五五〇石を算出し、既に工場土場に搬入されている一、〇〇〇石を差引き、三、五五〇石が山元に残存する利用材積であると誤解したものである。その評価額についても取得額を参酌し一石当り時価二七四円としてこれに三、五五〇石を乗じた数額九七二、七七六円を算出しているものである。乙第九号証五枚目永見清一郎が国税局担当官に提示したという算定方式

6,500×0.7=4,550 (¥1,005,621.00+592,500.00)/4,550×3,550=972,776円

によるも九七二、七七六円にはならず一、二四六、〇五〇円となり、九七二、七七六円は被告主張の算式によるものでなく、石当り時価二七四円に三、五五〇石を乗じて算出されたものである。本件山林の持分1/2を九七二、七七六円で評価しているものではない。

(三)  本件山林の実石数は昭和二五年五月八日高畑、益田が小林家信から買い受け当時利用材積を一五、〇〇〇石と見積つたところ、その後、同年六月朝鮮戦争の勃発により同二七年七月頃から木材の需要も急増し、価格は暴騰した。この結果、当初商品価値がないと見られた生長の悪い立木まで商品価値を生じ、結果的には全山として約二五、〇〇〇石ないし約三〇、〇〇〇石の利用材積があることとなつた。右立木のうち、昭和二五年一二月から同二六年六月末頃までに、高畑と益田共同にて間伐材約一一、〇〇〇石を出材し、同年七月二二日高畑の単独所有となつているもので、原告会社設立当時の本件山林の実石数は一四、〇〇〇石ないし一九、〇〇〇石である。この本件山林の実石数より見ても、永見清一郎の計算は錯誤にもとづくものであることが明らかである。原告会社設立後の出材石数は三、五五〇石を越え、五、九八〇石を出材しているが、これは前述のとおり、朝鮮動乱の影響により商品価値のできた間伐材が増えたこと、石数は見積によるので多少の誤差が生ずることによるもので、昭和二六事業年度の本件山林の期末棚卸額は一、〇七八石、三六〇、四三一円(石当り三三五円余り)である。被告は本件山林実石数二六、一七六石として、結局原告会社設立後、本件山林を土木財産組合に交換に出すまでに一二、三四六石を出材した旨主張しているが、この中には土場崩れによる積み直し石数七、〇〇〇石が重複して加算されており、これを差引くと結局原告主張出材石数となる。

(四)  昭和二五年度高畑個人の富裕税申告書(乙第一号証)に、本件山林の記載があるのに、同二六年度同人の富裕税申告書(乙第二号証)にその記載がないことは、永見清一郎が本件山林の高畑持分は全部原告に出資されたものと誤認したことにもとづくものであり、高畑は税務関係を永見に委せており右昭和二六年度富裕税申告書を点検しておらず本件山林が記載されていないことに気づかなかつたものである。さらに高畑の昭和二六年度富裕税申告書によれば財産価格一一、三一八、九七八円、富裕税額三七、七六一円であり、本件山林は同二五年度富裕税申告書によれば六〇〇、〇〇〇円であり全財産からみれば僅かで税額も僅少であるから、故意に本件山林を不記載にする利益はない。

二  昭和二九事業年度の課税処分の根拠について、

(一)  別紙被告ら準備書面記載の課税要件中、益金科目については原告の申告額欄記載の金額は認めるが、それを増額する部分は全て争う。損金科目については申告額を増額する部分は認め、減額する部分は争う。本件山林関係は関連上損金科目を増額する部分も争う。被告主張の第四の二の(一)項の事実中、原告が土木財産組合との間に、同組合取得元国有林と本件山林を被告主張の日付けで交換したこと、原告が取得した元国有林の一部を松岡孝次に六、五〇〇、〇〇〇円で売却したこと、本件山林の評価額が二一、〇四二、六〇九円であること、原告が同組合に交換差金五、五〇〇、〇〇〇円、延滞金六三、四六二円を支払つたことは認め、その余は争う。同(二)項の事実は否認する。

(二)  本件山林売上げ金二一、〇四二、六〇九円は存在しない。原告が高畑から出資を受けた本件山林の間伐材三、五五〇石は、実際には全部で五、九八〇石を出材し、昭和二七年一一月三〇日に終山となつている。原告が、昭和二九年四月二八日付契約書により土木財産組合と交換を約した本件山林は右契約時においては高畑個人の所有であつて原告の所有ではない。原告は、右組合との契約にもとづき高畑から昭和二九年五月二七日付をもつて本件山林を菊池営林署の最終評価額二一、〇四二、六〇九円をもつて買い受け、右組合に対し所有権の移転をなしたものである。土木財産組合は、国との間に、昭和二九年三月三一日本件山林を交換物件として前記楮畑五〇二〇番の一山林(原告が取得した元国有林を含む)を取得する契約をなし、本件山林の評価額二一、〇四二、六〇九円と右山林の評価額三六、三五〇、二二五円の差額一五、三〇七、六一六円を支払うため、国より取得する山林の一部を橋爪保、神谷強、松岡孝次に合計一五、三〇〇、〇〇〇円で売却している。よつて、右橋爪等に売却した右山林の残部は本件山林と同額になるもので、原告には土木財産組合との交換により何ら交換差益(所得)は生じないばかりか、原告は同組合の赤字補填のため交換差金五、五〇〇、〇〇〇円、延滞金六三、四六二円を同組合に支払い、本件交換においては原告は赤字となつている。

(第二次的請求について)

第一原告の請求原因

一  第一次的請求に対する請求原因第一項で述べたごとく、原告は昭和二六事業年度以降青色申告書提出の承認を受けているところ、被告熊本税務署長は原告の昭和二六事業年度法人税について再更正処分、同二九事業年度法人税について更正処分をしたが、右処分にはいずれも全く理由の附記がなく、推計課税をなしている。又被告熊本国税局長がなした右両年度法人税等についての各審査決定には理由の記載はあるが、理由として不備であり理由の附記がなされていないに等しい。よつて右再更正処分、更正処分および審査決定には手続上の違法があり、取り消されるべきである。

第二被告の答弁

一  被告熊本税務署長

原告がその主張年度より青色申告書提出承認を受けたこと、再更正処分、更正処分に理由の附記がないことは認め、推計課税であることは否認する。

二  被告熊本国税局長

審査決定の理由に不備があることは争い、推計課税であることは否認する。

第三被告の主張

一  被告熊本税務署長

(一)  原告には昭和二六事業年度において後記(1)、(2)の事実があつたので、被告は昭和三二年五月八日付で同事業年度にさかのぼり原告に対する青色申告書提出の承認を取り消し、右決定の通知書はその頃原告に到達した。よつて、再更正処分、更正処分の理由附記は必要でなく、推計課税も合理的であれば許される。もつとも本件再更正処分は同年一月二三日付で、更正処分は同年三月八日付でそれぞれなされ、その通知書はその頃原告に到達しているので、右各処分の通知書が送達された時点において、右処分に理由附記欠缺の瑕疵があるとしても、右各処分と青色申告書提出承認取り消しは本件山林関係所得を隠ぺいしていたという事実および後記(1)、(2)の事実を共通基礎として、右各処分は青色申告書提出承認取り消しを前提としてなされたものである。このような場合には、仮に先行する処分に瑕疵があつたとしても、後記の青色申告書提出承認取り消しがその効力を生じた時に、右瑕疵は治ゆされたものというべきであるから、結局本件各処分には取り消されるべき違法はない。

(1) 原告は昭和二六事業年度分所得について小口売掛けの一部を簿外の売掛帳に記載し、又は全く記載せず、小口現金売上げの一部を公表帳簿に記載せず、この売上げ金を原告会社代表者個人名義および同人の妻名義とする銀行預金としたりして売上げを脱漏していた事実があり、原告の備付ける帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実の記載があつた。

(2) 法人税法(昭和三〇年法律第三五号による改正前のもの)第二五条、同法施行細則第一二条ないし第一九条の各規定によれば、青色申告をもつてする法人税の申告は政府が当該法人において命令の定める帳簿書類を備え付けかつこれに一切の取引を複式簿記の原則に従い、整然とかつ明瞭に記録し、その記録にもとづいて決算を行うことを要件としている。ところが、原告には昭和二六事業年度以降青色申告者としての帳簿が全く整理されておらず原始記録も整つていなかつたことが明らかであり、原告法人の備え付ける帳簿書類は命令の規定に準拠していない。

(二)  かりに、本件再更正処分、更正処分につき前記のように瑕疵の治ゆが認められないとしても、前記のとおり原告備え付けの帳簿書類は青色申告者のものとしての資格を備えていなかつたものであるから、原告は青色申告者としての特典を自から放棄したものというべく、したがつて原告が青色申告者であつたことを理由に右各処分の理由附記欠缺の違法を主張することは信義則に反し許されない。

二  被告熊本国税局長

(一)  昭和二六事業年度における主要な争点は、原告代表社員である高畑個人所有本件山林が原告会社設立の際全部原告に出資されたか否かということであり、同年度に対する審査決定の理由には「法人設立に際しての楮畑山出資関係についての貴法人の主張は認められません」と記載されており、争点について具体的に判示し原告においても審査決定がいかなる理由をもつて所得金額、税額を算出したかを十分知りうるものである。

この場合事実認定の証拠の説明や計算の過程までも記載する必要はない。よつて、被告熊本税務署長主張のとおり白色申告者となつた原告の法人税に対する右審査決定に理由不備の違法はない。

(二)  昭和二九事業年度に対する審査決定の理由には「仕入洩れについては一部真実と認められますが、支払代金の出所が不明であり財産増減法によつて判定した所得金額でありますから所得金額は影響ありません」と記載されており財産増減法すなわち期首期末の資産負債を把握し、その対照により所得を計算したから、個別的な仕入れ洩れや経費洩れは所得の計算に影響がないものであり、白色申告者となつた原告の法人税に対する右審査決定に理由不備の違法はない。なお本件訴訟において被告らは損益通算の方法によつてのみ原告の所得を説明し立証したが、これは訴訟便宜のためであり、税務当局が行なつた査察、審査の段階では財産増減法によつて原告の所得を検討し把握したものである。なお財産増減法により所得を算出したものであるから推計による課税ではない。

第四被告の主張に対する原告の答弁および主張

一  被告熊本税務署長の主張に対して、

(一)  被告主張第三の一の(一)の事実は認めるが、瑕疵が治ゆされたという主張は争う。同(一)の(1)の事実は取引の全部又は一部を隠ぺい又は仮装して記載したことは否認し、その余は認める。取引の一部につき脱漏があつたのは原告従業員がたまたま帳簿に記載するのを忘れたものであり、隠ぺい仮装したものではない。よつて被告の原告に対する青色申告書提出承認の取り消しには明白にして重大な瑕疵があるので、右取り消し処分は無効である。同(一)の(2)、同(二)の事実は争う。

(二)  昭和三一年改正前の法人税法第三一条の四第一項によれば、青色申告書提出承認を受け青色申告書を提出した場合には帳簿の調査により誤りがあつた場合に限り更正処分および再更正処分が許されると解すべきであるのに、帳簿外の調査による脱税確認により右各処分をなしたことは違法であり、右各処分は取り消されるべきである。

(三)  青色申告書提出承認取り消しがなされる前になされた右各処分には当然青色申告法人に対する処分として、理由を附記しなければならない。

二  被告熊本国税局長の主張に対して、

被告主張のごとき理由が各審査決定の理由として記載されていることは認め、理由に不備がないという主張は争う。

第五原告の主張に対する被告熊本税務署長の答弁

青色申告書提出承認取り消し処分に明白にして重大な瑕疵があり、右処分は無効であることは争う。右処分には何らの瑕疵はなく、かりに瑕疵があつたとしても、その瑕疵は取り消し理由になるにすぎず、右処分はすでに取り消しがなされず、出訴期間を経過しているので、有効に確定している。

(証拠省略)

理由

(第一次的請求について)

一  原告は以下認定のとおり昭和二六年事業年度中に本件山林全部を取得したものである。すなわち、

(一)  成立に争いのない乙第三、四、五号証、第一〇号証の一によれば、原告会社は昭和二六年八月一〇日設立された合資会社であり、会社としての実際の営業は同年同月一日より開始しており、原告会社を設立し代表社員となつた高畑末登は同年七月頃はすでに原告会社を設立し、同人所有の製材用営業資産を原告会社に現物出資をすることを予定していたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  成立に争いのない甲第二七号証、証人小林家信の証言(第二回)、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二五、二六号証、証人相垣源の証言(第一、二回)により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一ないし五、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三二号証、証人益田稔、同小林家信(第一、二回)、同相垣源(第一、二回)の各証言、原告代表者尋問の結果によれば、本件山林は、隈府町々有林であつたところ、昭和二五年四月一七日高畑と益田が小林家信名義で土地とも代金一、一〇〇、〇〇〇円で買い受ける契約をなし、実際は代金として一、三〇〇、〇〇〇円を支払い、高畑と益田が各1/2の持分権を取得し、右三名の共同事業として伐採を行つていたが、都合により高畑の単独所有とすることになり、本件山林取得より譲渡時までの高畑、益田の出費の割合から差引計算をし、結局高畑が益田に八〇〇、〇〇〇円を支払い益田の持分を譲り受けることにし、小林には高畑から三〇〇、〇〇〇円を支払い、高畑は同年七月二二日頃益田の持分を取得したことがそれぞれ認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  右(一)(二)認定の事情と以下認定の事実を綜合判断すれば、高畑は、原告会社設立時、同人が益田との共有時所有していた本件山林持分(1/2)および益田から買い取つた同人の本件山林持分(1/2)をともに原告会社に譲渡(現物出資)したものと推認するのを相当とする。すなわち、

(1) 証人西島義弘の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証(高畑末登の昭和二五年分富裕税申告書)には本件山林持分(1/2)は「製材用原木、五、〇〇〇石、六〇〇、〇〇〇円、土地を含む」として、他の植樹林と区別して営業用資産として記載されている(成立に争いのない乙第四号証の高畑の供述による)。公官署作成部分につき成立に争いがなく、高畑名下の印影が同人の印章によるものであることにつき争いがなく同人が捺印したことにつき反証がないので結局全部真正に成立したものと推定すべき乙第二号証(昭和二六年分高畑末登富裕税申告書)には本件山林持分の記載はなく、同年度中に高畑はその持分を他に処分したものと推認される。

(2) 成立に争いのない乙第三、四、五号証、第一〇号証の四、証人西島義弘の証言により真正に成立したものと認められる乙第八、九号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一九、二九号証、前掲乙第三二号証、証人西島義弘、同杉野梅次(第一回)の各証言によれば、原告会社の財産目録(乙第一〇号証の四)には本件山林三、五五〇石、九七二、七七六円の記載があり、この石数と価額は原告会社設立事務を担当した林計理事務所職員永見清一郎が被告熊本国税局の高畑個人の所得税調査(乙第八号証)による昭和二五年度末本件山林持分六、五〇〇石、価額一、〇〇五、六二一円にもとずき、実際に利用できる石数をその七割として四、五五〇石と見て、昭和二六年度原告会社設立までの高畑個人出材石数一、〇〇〇石を差し引き三、五五〇石を算出し、同年中高畑個人が本件山林に要した経費五九二、五〇〇円を加算し、算式6,500石×0.7=4,550石 (1,005,621+592,500)/4,550×3,550≒972,776(円)で計算したものであるが、実際は一、二四〇、〇〇〇円余りになるところ、経費は出材した一、〇〇〇石の方に余計にかかること等より実情に合うように算式より少くな目に評価したものであり、この算式は永見自身が乙第九号証に記載したものであり、三、五五〇石、九七二、七七六円は高畑個人の本件山林持分(土地を含む)を示すものであつて、高畑はその持分全部を原告会社に現物出資したものというべきである。右昭和二五年度末高畑所有本件山林持分六、五〇〇石、価額一、〇〇五、六二一円はその価額において本件山林の隈府町よりの取得費一、三〇〇、〇〇〇円の二分の一、六五〇、〇〇〇円に投下経費三五〇、〇〇〇円(証人西島義弘の証言)を加えたものに相当し、その石数は高畑の昭和二五年分富裕税申告書の五、〇〇〇石に見合うものである。

(3) 成立に争いのない甲第七、八号証の各一ないし五、証人相垣源の証言(第一、二回)により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一ないし五、証人小林家信、同益田稔、同相垣源(第一、二回)の証言、原告代表者尋問の結果によれば、昭和二五年末本件山林高畑所有持分の実石数が六、五〇〇石を越え、その実価額も一、〇〇五、六二一円を越え、原告会社設立時においても実石数、実価額とも三、五五〇石、九七二、七七六円を越えていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

しかし、証人杉野梅次の証言によつても明らかなごとく、個人の財産を自己が代表者となる個人会社又は同族会社に出資する場合(原告会社が同族会社ないし個人会社であることは成立に争いのない乙第一〇号証の二、原告代表者尋問の結果により明らかである)には、個人の時の帳簿価格で会社に出資するのが会計上の原則である。(実価に合せて個人時代の帳簿価格(取得価格とすると)より高額で会社に出資したようにすれば個人に譲渡所得税が課税されることになる)。三、五五〇石、九七二、七七六円は高畑個人時代の被告熊本国税局の調査価格および高畑の昭和二五年分富裕税申告書価格に見合うものである。

(4) 以上(1)(2)(3)認定事実に照し、右認定に反する証人永見清一郎の証言(第一、二回)の一部、原告代表者尋問の結果の一部は採用できない。

なお、原告は本件山林は植樹林(保有林)であるから、持分全部を出資するわけがなく、出資したのは間伐材だけであると主張するが、成立に争いのない甲第二八号証の二によれば、昭和二六年当時で本件山林の樹令は杉四七年、檜、赤松四二年位で、同号証の営林局評価でも伐期以上となつており、伐期未満とはなつていない。高畑自身も前述のとおり昭和二五年分富裕税申告書では他の植樹林と区別して伐期になつたものとして営業用資産として評価しているものである。右認定に反する証人小林家信、同益田稔、同相垣源(第一、二回)の証言、原告代表者尋問の結果の各一部は採用できない。

(5) 本件山林に関する益田所有持分は前述(二)のとおり、原告会社設立前に高畑が取得したのであるが、前述(一)のとおり原告会社設立を予定していたので、高畑は自己が取得した益田所有持分も自己の持分同様原告会社に出資することにして、その代金を原告会社から支払うこととし、昭和二六年一一月七日四〇〇、〇〇〇円、同二七年四月一日四〇〇、〇〇〇円、合計八〇〇、〇〇〇円を支払つた(成立に争いのない甲第八号証の七、前記成立の認められた乙第一九号証、証人永見清一郎の証言)と推認するのが相当である。高畑は自己の持分は自己の昭和二五年分富裕税申告書にも記載しているので、原告会社設立の際、その財産目録に正式に出資として記載したが、益田の持分はそのような記載がないので、実際は出資するが帳簿に記載しないことにしたものと考えられる。益田の持分の出資については高畑の明示の意思表示はないが、高畑は原告会社(個人会社)の代表社員になる者であり、自己の持分については正式に出資していること(益田から取得した持分を除外すべき特段の事情は認められない)、原告会社設立後、会社から益田にその代金が支払われていることより見て、高畑は自己の持分とともに益田から取得した持分も出資したものと解するのが相当である。右認定に反する証人永見清一郎の証言(第一、二回)、原告代表者尋問の結果の各一部は右認定事実に比照すれば採用できない。

二  昭和二六事業年度の課税根拠について

(一)  前記一において認定のごとく、高畑は本件山林全部を原告会社に出資したものであるところ、被告熊本税務署長は益田持分については原告が直接益田から取得した旨主張するが、原告が出資により取得したものであつても、設立後買い受けたものであつても、所得の計算においては期首財産となるか期中仕入財産となるかの相異であり、所得計算に変わりはなく、したがつて主要事実の主張に変りはない。さらに高畑が益田の持分を取得したことは原告自から主張しているところである。

(二)  したがつて、別紙被告ら準備書面で被告が主張する山勘定仕入高脱漏八〇〇、〇〇〇円が期首山勘定繰越高脱漏となり、結局本件山林関係期末山勘定棚卸高脱漏一、二四四、九六四円となる。すなわち、成立に争いのない乙第三五号証の六九、七〇、証人杉野梅次の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第二四、二六号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一二、一八号証、証人杉野梅次(第一回)の証言によれば、原告会社に出資時の本件山林の全実石数は、昭和二八年九月一五日現在の菊池営林署調査による本件山林の杉、檜の立木数一九、七四八石(乙第二四号証)にその利用率七割として利用石数約一三、八三〇石と原告会社設立からの出材石数合計一二、三四六石(乙第二六号証の八枚目、(11,802石+電柱材162本300石+足場976本244石=12,346石)(乙第二六号証、第三五号証の七〇)を加えると二六、一七六石(この半数は一三、〇八八石)となる。原告は右一二、三四六石には土場崩れによる積み直し七、〇〇〇石が重複して加算されている旨主張するが、相垣源の大蔵事務官杉野梅次に対する供述録取書(乙第一二号証)によれば、一二、三四六石には土場崩れによる七、〇〇石は重複していないことが認められ、原告自認の高畑、益田共同時代(昭和二五年一二月から同二六年七月まで)の出材石数約一一、〇〇〇石からみても、期間は約二倍であるから相当である(成立に争いのない甲第八号証の一ないし五、証人相垣源の証言(第一、二回)によれば、原告会社設立後本件山林交換までの出材期間は昭和二七年一二月頃までであり、他に右認定に反する証拠はない。)。よつて右認定事実に反する成立に争いのない甲第七、八号証の一ないし五、第八号証の七、第二三号証の九ないし一二、証人相垣源の証言(第一、二)により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の四、証人相垣源(第一、二回)同小林家信、同益田稔の各証言の一部は前掲証拠に比照すれば採用できない。

さらに成立に争いのない甲第七号証の一ないし五によれば、原告会社の昭和二六事業年度中における本件山林からの出材石数は二、四七一・六七石であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。本件山林の出資時の価格は前記認定のとおり九七二、七七六円に八〇〇、〇〇〇円を加えたものであるから、その石数原価は(972,776円+800,000円)÷26,176石=67.72円である。期中出材価格は67.72×2,471.67=167,381円である。よつて本件山林の期末棚卸額は(972,776円+800,000円)-167,381円=1,605,395円 である。原告が本件山林の期末棚卸高として三六〇、四三一円を申告していることは当事者間に争いがないので、原告申告額と実際の額の差額は一、二四四、九六四円となる。

(三)  損益計算の算式、期首棚卸額+期中仕入額-期末棚卸額=売上原価、期中売上額-売上原価=売上利益に本件山林関係の期首繰越高脱漏八〇〇、〇〇〇円、期末棚卸高脱漏一、二四四、九六四円を当てはめて見ると、期末棚卸高脱漏一、二四四、九六四円は売上利益を増加する益金科目であり、期首繰越高脱漏八〇〇、〇〇〇円は売上利益を減少する損金科目であるので、その差額1,244,964円-800,000円=444,964円 は本件山林関係所得脱漏により全体の売上利益をそれだけ脱漏したことになる。右四四四、九六四円を被告主張の純利益(所得)額二、四二五、七四三円より減ずると、2,425,743円-444,964円=1,980,779円 となり、この一、九八〇、七七九円は原告が請求の原因において主張している原告の昭和二六事業年度における所得額である。

(四)  よつて、原告は昭和二六事業年度においては、結局本件山林関係所得のみを争つていることになり、本件山林関係所得は以上認定のとおり、被告主張額になるので、結局原告の昭和二六事業年度の所得は二、四二五、七四三円となる。

(五)  右所得二、四二五、七〇〇円(一〇〇円未満切捨)に当時の法人税法第一七条による税率四二%を乗ずると法人税額一、〇一八、七九〇円となる。

(六)  重加算税について

前記認定のとおり、原告は本件山林関係以外の被告主張の脱漏所得は認めていることになるので、それが課税要件事実の隠ぺい又は仮装によるものか否かについて判断する。

別紙被告ら準備書面(昭和二六年度分所得について)記載の脱漏科目金額について。

製品売上高脱漏五四三、〇〇六円は原告従業員高橋静子等が取引の一部を故意に記帳せず、所得を隠ぺいしたことによるものであることは成立に争いのない乙第三八ないし第四五号証によつて認められ、他に右認定に反する証拠はない。

山勘定棚卸高脱漏一、四〇〇、五〇二円中一五五、五三八円は鞍岳山、深葉山の棚卸計上洩れであり、原告が自己の営業用資産を帳簿に計上しなかつたもので、弁論の全趣旨を綜合すると、右計上洩れが原告代表者の隠ぺい行為によることが推認され、他に右認定に反する証拠はない(課税要件事実の隠ぺいに基づかないことが明らかとはいえない)。

その余の山勘定棚卸脱漏一、二四四、九六四円は本件山林関係であり、前記一で認定したとおり、本件山林は全部合計一、七七二、七七六円で現物出資したものであるにかかわらず、三、五五〇石のみを九七二、七七六円で現物出資したもののごとく仮装し、課税要件事実を隠ぺいしたものである(課税要件事実の隠ぺいに基づかないことが明らかとはいえない)。

素材勘定棚卸高脱漏二六六、四六二円は素材の石当原価を不当に低く見積つたもの、源価償却費脱漏二一、二五一円は過剰に償却費を計上したもので、弁論の全趣旨を綜合すれば、ともに課税要件事実の隠ぺいに基づかないことが明らかとはいえないし、他に右認定に反する証拠はない。

雑収入脱漏三三、八二五円は未収運賃の計上漏れ、原告代表者に対する仮払金に課すべき認定利息であり、弁論の全趣旨を綜合すれば、課税要件事実の隠ぺいに基づかないことが明らかとはいえず、他に右認定に反する証拠はない。

以上の脱漏所得合計二、二六五、〇四六円から山勘定仕入高脱漏一、五〇二、九五七円(この中本件山林関係八〇〇、〇〇〇円は前記一で認定のとおり山勘定期首繰越高として認定すべきものであり、他の部分は原告は争つていない)は本件山林と他の山林の仕入高であるから、前記認定のとおり重加算税対象所得から減算すべきものであり、これを減算すると、七六二、〇八九円となる。右七六二、〇八九円が重加算税の対象である隠ぺい又は仮装による所得となる(原告の従業員の隠ぺい行為は原告代表者の行為と同視すべきことは重加算税の制度目的より明らかである)。右重加算税対象所得七六二、〇〇〇円(一〇〇円未満切捨)に当時の法人税法第一七条による法人税率四二%を乗ずると、三二〇、〇四〇円となるが、原告は更正処分により既に所得金額二、二一六、一三一円に相当する法人税額九三〇、七六〇円を納付しているので(当事者間に争いがない)、結局追徴法人税額は八八、一九〇円となり、これに当時の法人税法第四三条の二による重加算税率五〇%を乗ずると四四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となる。

(七)  以上により、結局原告の昭和二六事業年度の法人税額は一、〇一八、七九〇円、重加算税額は四四、〇〇〇円となり、被告主張額のとおりであり、この点の原告の請求は理由がない。

三  昭和二九事業年度の課税根拠について

(一)  本件山林関係について見るに、昭和二九年四月二八日原告と土木財産組合との間に本件山林と同組合が国から取得する元国有林を交換する契約が成立し、原告は元国有林を取得し、同組合は本件山林を取得したこと、本件山林の交換時の評価額が二一、〇四二、六〇九円であること、原告は交換に際し、交換差金五、五〇〇、〇〇〇円、延滞金六三、四六二円を同組合に支払つたこと、原告は交換により取得した元国有林の一部を松岡孝次に六、五〇〇、〇〇〇円で売却したことは当事者間に争いがない。

(二)  山林を交換した場合は税務計算上交換に供した山林をその評価額で売却し、交換により取得した山林をその評価額で買い入れたように処理するから、原告には本件山林に関し、本件山林の評価額二一、〇四二、六〇九円、交換により取得した元国有林の一部を松岡孝次に売却した六、五〇〇、〇〇〇円、以上合計二七、五四二、六〇九円が本件山林関係勘定売上げ高となる。

(三)  前記二の(二)において認定したごとく、原告会社設立後交換時までの出材期間は昭和二七年一二月頃までで、その出材石数は一二、三四六石、昭和二六事業年度中における出材石数は二、四七一石であるから、昭和二七事業年度の出材石数は九、八七五石となる。よつて、本件山林の期首繰越高は昭和26事業年度期末棚卸高(1,605,395円)-石当原価(67円72銭)×昭和27事業年度出材石数(9,875石)=936,667円22銭となる。

(四)  交換により取得した元国有林の評価額は、等価交換の原則からみると、結局交換に供した本件山林の評価額二一、〇四二、六〇九円と原告が支払つた交換差金五、五〇〇、〇〇〇円、延滞金六三、四六二円の合計二六、六〇六、〇七一円であり、これが本件山林関係山勘定期中仕入れ高になる。

(五)  証人杉野梅次の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第二五号証の一、二、その方式および趣旨より公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二八号証、証人杉野梅次の証言(第一回)によれば、原告が取得した元国有林から松岡孝次に六、五〇〇、〇〇〇円で売却した部分を除いた残りの部分の利用可能実石数(出材石数)は一三、六三六石、昭和二九事業年度中の出材石数は五、四八四石であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。よつて、元国有林の残部の当期出材価格は(26,606,071-6,500,000)/13,636×5,484=8,084,585(円)となり、元国有林残部の期末山勘定棚卸高は(26,606,071-6,500,000)-8,084,585=12,021,486(円)となる。

(六)  以上本件山林関係の損益計算をなすと、936,667(期首繰越高)+26,606,071(期中仕入れ高)-12,021,486(期末棚卸高)=15,521,252(円)(売上原価)、27,542,609(売上げ高)-15,521,252(円)(売上原価)=12,021,357(円)(売上利益)の利益(所得)があつたことになる。

(七)  原告は、交換に供した本件山林は昭和二九年五月二七日交換時の評価額二一、〇四二、六〇九円をもつて高畑個人より取得したものであるから、交換による譲渡利益は何ら生じていない旨主張するが、前記認定のとおり本件山林は原告会社設立の時全部出資されているものであるから、右主張は採用できない。又原告は交換差金五、五〇〇、〇〇〇円は実質寄附金であり元国有林の対価ではない旨も主張するごとくであるが、特段の事情の認められない本件においては、通常取引における等価交換の原則からみて、右主張も採用できない。

(八)  よつて、本件山林関係については別紙被告準備書面記載のとおり、山勘定売上げ高において二七、五四二、六〇九円、山勘定繰越高において九三六、六六七円、山勘定仕入れ高において二六、六〇六、〇七一円、山勘定棚卸高において一二、〇二一、四八六円の脱漏を生じている。

(九)  本件山林関係以外については、原告は益金科目の原告申告額を増額した部分および損金科目の原告申告額を減額した部分についてのみ争つている。益金科目の原告申告額を増額した部分は製品売上げ高差額七、七五八、二九三円、受取加工賃差額一六〇、八一〇円である。損金科目を申告額より減額した部分は存在しない。

(一〇)  成立に争いのない乙第三七ないし第四〇、四三、四五号証に弁論の全趣旨を綜合すれば、右製品売上高差額七、七五八、二九三円および受取加工賃差額一六〇、八一〇円の脱漏があつたことが推認され、他に右認定に反する証拠はない。

(一一)  以上(八)、(九)、(一〇)で認定の脱漏科目金額と右以外の科目金額(当事者間に争いのない部分)を損益計算の算式により計算すると、当期純利益は一三、四六六、四四八円となる。

右所得(一〇〇円未満切捨)に対する法人税は当時の法人税法第一七条による税率四二%を乗ずると、五、六五五、八八八円となる。

(一二)  重加算税について

別紙被告ら準備書面(昭和二九事業年度分について)記載の脱漏科目金額について。

製品売上げ高(益金科目)脱漏七、七五八、二九三円が課税要件事実を隠ぺいしたものであることは成立に争いのない乙第三七ないし第四〇、四三、四五号証に弁論の全趣旨を綜合すれば認められ、他に右認定に反する証拠はない。

山勘定売上げ高(益金科目)脱漏二七、五四二、六〇九円の中、原告が取得した元国有林の一部を松岡孝次に売却した代金六、五〇〇、〇〇〇円は課税要件事実の隠ぺいに基づかないことが明らかとはいえない(かえつて前記認定の事実によれば隠ぺいに基づくものというべきである)。本件山林の評価額二一、〇四二、六〇九円については実際は交換にもとづくものを税務計算上売買として処理するものであるから売上げ金を隠ぺいしたものといえず、課税要件事実の隠ぺいに基づかないことが明らかである(被告も重加算税の対象とはしていない)。

売上げ値引(損金科目)脱漏一五、二九〇円は前記製品売上げ高脱漏についての値引高に当るので、重加算税の対象所得から減算すべきものである。

山勘定繰越高(損金科目)脱漏九三六、六六七円も前記認定のとおり本件山林の期首残高であるから、重加算税対象所得から減算すべきものである。

山勘定仕入れ高(損金科目)脱漏二九、〇四七、二五一円の中、交換差金五、五〇〇、〇〇〇円、延滞金六三、四六二円および備考欄二記載の二、四四一、一八〇円は前記認定のおり重加算税対象所得から減算すべきものである。本件山林の評価額二一、〇四二、六〇九円に相当する部分は前記認定のとおり過少申告加算税対象所得からの減算となる。

素材勘定仕入れ高(損金科目)脱漏六七五、六四〇円は前記製品売上げ高の材料仕入代に相当するので、重加算税対象所得から減算すべきものである。

山勘定棚卸高(益金科目)脱漏一二、〇二一、四八六円(被告主張額と原告申告額の差額)の中、重加算税の対象となるものは、前記認定のとおり山勘定繰越高、山勘定仕入れ高の重加算税対象となる九三六、六六七円、五、五〇〇、〇〇〇円、六三、四六二円の合計六、五〇〇、一二九円の当期棚卸高を計算すればよいことになる。<イ>国有林仕入れと同時に松岡孝次に売却した山林六、五〇〇、〇〇〇円に対する費用は、6,500,129×6,500,000/26,606,071=1,588,129円、<ロ>原告の実質的仕入れに対する費用は、6,500,129×20,106,071/26,606,071=4,912,000円(26,606,071-6,500,000=20,106,071)、<ハ>元国有林立木石数一三、六三六石の内、当期出材五、四八四石に対する費用は、4,912,000×5,484/13,636=1,975,000円、<ニ>当期棚卸高は、6,500,129-1,588,129-1,975,000=2,937,000円、となり、結局重加算税対象棚卸高二、九三七、〇〇〇円、過少申告加算税対象九、〇八四、四八六円(12,021,486-2,937,000=9,084,486円)となる。

製造費(損金科目)脱漏二二八、二一四円の中、得意先招待簿外支出一七五、三〇〇円、動力費運賃の計上洩れ三六、九七三円、合計二一二、二七三円はその性質上重加算税対象所得より減算すべきものである。

営業費(損金科目)脱漏の中、備考欄一の(イ)、(ロ)、(ハ)の合計から二の(イ)を減算した一、〇四七、五八九円はその性質上重加算税対象所得から減算すべきものである。

受取加工賃(益金科目)脱漏一六〇、八一〇円が課税要件事実を隠ぺいしたものであることは成立に争いのない乙第三七ないし第四〇、四三、四五号証に弁論の全趣旨を綜合すれば認められ、他に右認定に反する証拠はない。

支払利息割引料(損金科目)脱漏六、八〇〇円はその性質上重加算税対象所得より減算すべきものである。

以上重加算税対象科目金額を損益計算すると、重加算税対象脱漏所得は六、四五七、二〇二円となり、右金額(一〇〇円未満切捨)に当時の法人税率四二%を乗じた二、七一二、〇〇〇円(一〇〇円未満切捨)が重加算税対象法人税額となり、右金額に当時の法人税法第四三条の二による重加算税率五〇%を乗ずると、一、三五六、〇〇〇円の重加算税額となる。

(一三)  過少申告加算税について

当期純利益一三、四六六、四四八円と原告申告額二二九、八四二円の差額一三、二三六、六〇六円から前記重加算税対象所得六、四五七、二〇二円を減算した六、七七九、四〇四円が過少申告加算税対象脱漏所得となる。右金額(一〇〇円未満切捨)に当時の法人税法第一七条による法人税率四二%を乗じた二、八四七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)に当時の法人税法第四三条による過少申告加算税率五%を乗じた一四二、三五〇円が過少申告加算税額となる。なお当時の法人税法第四三条、同条の二、第三三条によれば追徴税額に対し過少申告加算税を課し、課税要件の一部に隠ぺいがある場合は追徴税額から隠ぺいにもとづかないことが明らかな部分に対する過少申告加算税対象税額を控除した残額が重加算税対象税額とされているが、各脱漏所得に税率を乗じて算出した前記税額と同じになる。後記留保金額に対する重加算税、過少申告加算税の算出では条文どおりの算出法によつた。

(一四)  留保金額に対する法人税重加算税、過少申告加算税について

原告会社が当時の法人税法第七条の二に規定する同族会社であることは前記第一次的請求についての一の(三)の(3)において認定のとおりであるから、当時の法人税法第一七条の二による留保金額は、当期純利益一三、四六六、四四八円から道府県民税および市町村民税二五、九五〇円、社外流出金九〇〇、〇〇〇円(被告が九〇〇、〇〇〇円を純利益から控除していることが計算上認められ、この点は損金科目であるから、原告も争わないものと認められる)を減算した一二、五四〇、四九八円から前記法人税額五、六五五、八八八円、重加算税額一、三五六、〇〇〇円、過少申告加算税額一四二、三五〇円、右法人税(一〇〇円未満切捨)にかかる道府県民税三〇〇、三五七円(税率五・三%均等割六〇〇円)市町村民税五五一、〇一二円(税率九・七%、均等割二、四〇〇円)を減算した四、五三四、八九一円に期末現在積立金額二、一八八、八二六円(原告会社の昭和二八事業年度の法人税額等は既に確定しており、従つて同年度期末現在積立金額も確定され、その額が当期末現在積立金額になつていることおよび弁論の全趣旨を綜合すれば認められる)を加算した六、七二三、七一七円から資本金の二五%である二、五〇〇、〇〇〇円(一、〇〇〇、〇〇〇円より多額)を減算した四、二二三、七一七円である。

留保金額に対する特別法人税額は右留保金額に一〇%を乗じた四二二、三七一円(円以下切捨)である。

右特別法人税額のうち、過少申告加算税対象税額については、まず留保金額のうち重加算税対象金額は、前記三の(一二)の重加算税対象所得六、四五七、二〇二円から前記社外流出金九〇〇、〇〇〇円を減算した五、五五七、二〇二円であるから、留保金額のうち重加算税対象以外の金額は六、九八三、二九六円(留保金額12,540,498-5,557,202=6,983,296円)となり、右金額から、当期純利益のうち重加算税対象以外の所得に対する法人税(過少申告加算税対象税額と既払原告申告税額)二、九四三、八六四円(当期純利益13,466,448-重加算税対象所得6,457,202=当期純利益のうち重加算税対象以外の所得7,009,200〔100円未満切捨〕、7,009,200×42%=2,943,864円)、右法人税(一〇〇円未満切捨)にかかる道府県民税一五六、六二一円、市町村民税二八七、九四八円、前記三の(一四)の当期純利益に対する過少申告加算税一四二、三五〇円を各減算した三、四五二、五一三円に期末現在積立金額二、一八八、八二六円を加算した五、六四一、三三九円から資本金の二五%である二、五〇〇、〇〇〇円を減算した三、一四一、三三九円に一〇%の税率を乗じた三一四、一三三円が特別法人税額のうち過少申告加算税対象税額となる。特別法人税額四二二、三七一円から右過少申告加算税対象額を減算した一〇八、二三八円が重加算税対象税額である。右金額にそれぞれ重加算税率五〇%、過少申告加算税率五%を乗ずると、重加算税額五四、一一九円、過少申告加算税額一五、七〇六円(円以下切捨)となる。なお留保金額についても本来の脱漏所得に対すると同じく過少申告加算税、重加算税を課することは(特に刑罰的色彩の強い重加算税において)二重課税となり違法ではないかとの疑問はあるが、当時の法人税法第一七条の二、第四三条、第四三条の二の規定上、過少申告加算税、重加算税は追徴税額に課するものであること、留保金額には各種控除があり、税率も一〇%で左程高くないことおよび過少申告加算税、重加算税の制度目的を考慮すればやむをえないものと解する。

(一五)  法人税額の総額は、前記当期純利益に対する法人税額五、六五五、八八八円と留保金額に対する特別税額四二二、三七一円を合算し、六、〇七八、二五〇円(一〇円未満切捨)となる。

重加算税額の総額は、当期純利益の脱漏分に対するもの一、三五六、〇〇〇円と留保所得に対するもの五四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)を合計すると一、四一〇、〇〇〇円となる。

過少申告加算税の総額は、当期純利益の脱漏分に対するもの一四二、三五〇円と留保金額に対するもの一五、七〇六円を合算し、一五八、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となる。

ところが、被告は重加算税額一、一七二、〇〇〇円、過少申告加算税額一八二、八〇〇円を主張しているので、重加算税の被告主張額を越える部分に相当する脱漏所得(追徴税額)は過少申告加算税の被告主張額に満たざる部分の税額の対象にすべき旨を被告は予備的に主張しているものと解せられる(重加算税の課税要件は過少申告加算税の課税要件に要件を加重したものであり、税率も加重されている)。

重加算税の右認定額と被告主張額の差額は二三八、〇〇〇円である。そこで、留保金額に対する特別法人税額のうち重加算税対象税額一〇八、二三八円を過少申告加算税の対象税額とすると、その部分に対する過少申告加算税は五、四〇〇円(一〇〇円未満切捨)となる。さらに当期純利益脱漏分に対する重加算税額一、三五六、〇〇〇円と被告主張重加算税額の差額一八四、〇〇〇円に相当する脱漏法人税額は三六八、〇〇〇円であるから、右法人税額に対する過少申告加算税額は一八、四〇〇円である。

右過少申告加算税の対象所得に充当する部分に対する過少申告加算税の合計額は二三、八〇〇円であるので、これと本来の過少申告加算税額一五八、〇〇〇円を合算すると、一八一、八〇〇円となる。

(一六)  以上認定のとおり、昭和二九事業年度に対する課税処分は、法人税額において六、〇七八、二五〇円を越える部分および過少申告加算税額において一八一、八〇〇円を越える部分は違法であるので、これを取り消すべきである。重加算税額は被告主張額どおりである。

(一七)  なお昭和二九事業年度に対する審査決定において、加少申告加算税額は一八二、八〇〇円となり更正処分における額一八〇、四五〇円より二、三五〇円増額されているが、重加算税において審査決定額は一、一七二、〇〇〇円と更正処分額一、二八八、五〇〇円より一一六、五〇〇円減額されているので、前記のとおり重加算税額を過少申告加算税額に充当することもできる点より見れば、審査決定の重加算税額と過少申告加算税額の合算額が更正処分のそれを超過していないので、審査決定における不利益変更禁止の規定には違反しない。

(第二次的請求について)

一  原告は本件再更正処分、更正処分には理由の附記がなされていないから、右各処分は違法で取り消されるべきであると主張するので、この点について判断する。

(一)  まず原告は青色申告書提出承認取り消し処分は無効であると主張するので、この点から判断する。

原告は昭和二六事業年度より青色申告書提出承認を受けていたが、被告熊本税務署長は同事業年度にさかのぼり青色申告書提出承認取り消し処分を昭和三二年五月八日付でなし、右処分の通知書はその頃原告に到達したことは当事者間に争いがない。

右取り消し処分の理由の一つとして、原告の同事業年度に係る帳簿書類に取引の一部を隠ぺい又は仮装して記載したことを挙げているが、第一次的請求における同事業年度の課税根拠で認定したとおり、同事業年度に係る帳簿書類に取引の一部を隠ぺいしたことが認められる。よつて、本件取り消し処分には理由があり、取り消し処分が無効であるという原告の主張は認められない。

(二)  本件再更正処分は昭和三二年一月二三日に、更正処分は同年三月八日になされ、その頃その通知書がそれぞれ原告に到達したこと、右両処分の通知書には当時の法人税法第三二条後段に規定する理由の附記が全然なされていないことは当事者間に争いがない。青色申告書提出承認の取り消し処分があつたのは前記(一)に述べたごとく同年五月八日で、同処分はその頃原告に到達している。したがつて、本件再更正処分、更正処分当時は原告は青色申告の納税者であつたのであるから、右両処分の通知書には、当時の法人税法第三二条後段所定の理由の附記が必要であり、これを欠いた本件両処分は、その点において違法であつたといわなければならない。

(三)  しかし、当時の法人税法第二五条第七項には、当該法人の備え付ける帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載があるときは、その事実があつたと認められる時までさかのぼつてその承認を取り消すことができる。この場合においては、その事実があつたと認められる時以後に提出した青色申告は、青色申告書以外の申告書とみなす旨規定されている。

(四)  この規定によれば、青色申告書による法人税に対する更正処分がなされた後に、当該年度までさかのぼつて青色申告書提出承認の取り消し処分があれば、当該年度の青色申告書は白色申告書とみなされる結果、その青色申告書に係る更正処分も白色申告書に係る更正処分とみなされることになり、当時の法人税法三三条の解釈上、通知書の理由附記も必要でなくなる(いわゆる無効行為の転換)。よつて、本件再更正処分、更正処分も昭和二六事業年度以降の青色申告書提出承認取り消し処分により、白色申告書に係る再更正処分、更正処分とみなされ、その通知書の理由附記も必要でなくなり、通知書に理由附記のない瑕疵を理由として本件再更正処分、更正処分の取り消しを求める原告の請求は結局失当というべきである。

(五)  さらに原告は青色申告書を提出した場合には帳簿の調査により誤りがあつた場合に限り更正処分(再更正処分)が許されると主張するが、前記(四)のとおり原告は係争事業年度より白色申告者とみなされることになるから、内容の当否を判断するまでもなく、右主張は失当である。

二  原告は更に昭和二六、二九事業年度分法人税等に対する各審査決定に理由不備があるから、右各決定は違法で取り消されるべきであると主張するので、この点について判断する。

(一)  審査決定の理由附記の程度としては、その判断の根拠を納税者に理解できる程度に具体的に記載すべきものと解するのが相当であるが、事案により必ずしも一様である必要はなく、例えば青色申告の場合は当該制度が申告納税の合理化、正確化を期するために、公認の帳簿制度を普及徹底する必要から設けられたもので、青色申告者が所定の方式に従つて備え付け記帳された帳簿組織に基づいて所得の計算をし申告している以上、税務官庁において濫りにその帳簿書類を無視して更正することは許されず、調査の結果右帳簿書類の記載に誤りを認めて他の方法による更正をなすには、右更正が申告者の帳簿以上に正しい根拠に基づいてなされたことを申告者をして納得せしめるに足りる説明をする必要があり、この意味から青色申告の場合には審査決定のみならず、更正処分自体にも理由の附記を要求しているのに反し、白色申告の場合は推計による更正も認められ、且つ更正処分自体には法律上理由の附記は要求されておらず、この点から白色申告の場合は審査決定においてもその根拠の明示は自づと青色申告の場合と異つて良いはずである。

(二)  本件各審査決定が青色申告書提出承認取り消し後の昭和三八年二月二一日になされ、その頃その通知書が原告に到達したことは当事者間に争いがない。

よつて、本件各審査決定は、前記二において述べたごとく、青色申告書提出承認取り消しの効果の遡及効により、白色申告者に対する再更正処分、更正処分に対する審査決定となつている。

(三)  昭和二六事業年度に対する審査決定の通知書には理由として「法人設立に際しての楮畑山出資関係についての貴法人の主張は認められません」と、同二九事業年度に対する審査決定の通知書には理由として「仕入れ洩れについては一部真実と認められますが、支払代金の出所が不明であり、財産増減法によつて判定した所得金額でありますから所得金額は影響ありません」と各記載されていることは当事者間に争いがない。

(四)  成立に争いのない甲第一八号証によれば、昭和二六事業年度に対する審査決定の理由には右(三)で述べた記載に続いて「仕入れ洩れ八五六、二五一円の主張は七七一、八〇〇円は認められます。経費洩れ一〇一、九〇〇円の主張は認められません。その結果所得金額、税額は上欄のとおりとなります。」と記載され、成立に争いのない甲第一九号証によれば、昭和二九事業年度に対する審査決定の理由には右(三)で述べた記載に続いて「又経費洩れについては原処分で四五五、五〇〇円を認めており、それ以上であること理由がありません。設定利息の計算、留保所得に対する計算に誤りがありますから一部取り消し、所得金額、税額等上欄のとおりとなります。」と記載されていることがそれぞれ認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(五)  昭和二六・二九事業年度に対する審査請求での主要な争点は本件山林全部が昭和二六事業年度において原告に出資されたか否かにかかつており、この点について同事業年度に対する審査決定では「貴法人の主張は認められません」として、結局本件山林全部が同事業年度において出資されたことを認定し、その金額は原告備え付け帳簿記載の金額によつていることは当事者間で明らかであり、その結果昭和二九事業年度における本件山林関係所得も自づと決定されることも明らかである。

その他両事業年度の審査決定において仕入れ洩れ、経費洩れの認定金額も示し、争点になつている部分について概括的摘示をしている。

(六)  前記(一)に述べたごとく、白色申告者に対する審査決定の理由附記の程度は青色申告者に対するものより軽減され、白色申告の場合には推計課税も許される結果、審査決定の理由においても、遺脱、誤算の発見された勘定科目と金額および修正金額算定の根拠のごとき基本的事項の具体的明示は必要でなく、概括的摘示で足り、その金額が推計上合理的範囲にあれば足りると解するのを相当とする。

(七)  この観点より見れば、本件各審査決定の理由附記の程度は右(三)、(四)、(五)で認定のとおりであるが、この程度で白色申告者に対する審査決定の理由附記としては十分であり、理由不備の違法はない。よつて審査決定通知書の理由附記の不備を理由として本件各審査決定の取り消しを求める原告の請求は失当である。

(結論)

以上により、昭和二九事業年度に対する法人税額六、〇七八、二五〇円、過少申告加算税額一八一、八〇〇円をそれぞれ越える部分は違法であるので、原告の本訴請求は右それぞれの部分の取り消しを求める限度において正当として認容すべく、その余の被告両名に対する請求は失当として棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤寛治 中山博泰 上野至)

(別表、準備書面(被告)省略)

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